明るけりゃ月夜だと思う

(*´ω`*) 1えり???v09/07 13:29?d?b3PC Android返信

はなそー(*´ω`*)

27才

二人は楽しそうに 1K???v07/02 00:41?d?b3PC PC返信

追々入って来るホールの観客を見降ろしながら、木の入るのを待っていた。

 到頭ある日葉子から電報が来た。月蒼く水煙る、君きませというような文句であった。
 庸三はもう二週間もそれを待ちかねていた。絶望的にもなっていた。いきなり彼女の故郷へ踏みこんでいって、町中に宿を取って、ひそかに動静を探ってみようかなぞとも考えたり、近所に住んでいる友人と一緒に、ある年取った坊さんの卜者に占ってもらったりした。彼はずっと後にある若い易の研究者を、しばしば訪れたものだったが、その方により多くの客観性のあるのに興味がもてたところから、自身に易学の研究を思い立とうとしたことさえあったが、老法師のその場合の見方も外れてはいなかった。占いの好きなその友人も、何か新しい仕事に取りかかる時とか、または一般的な運命を知りたい場合に、東西の人相学などにも造詣のふかい易者に見てもらうのが長い習慣になっていた。支那出来の三世相の珍本も支那の古典なぞと一緒に、その座右にあった。
「梢を叩き出してもかまわない。おれが責任をもつ。」
 そう言って庸三の子供たちを激励する彼ではあったが、反面では彼はまた庸三の温情ある聴き役でもあった。
 老法師は庸三たちの方へ、時々じろじろ白い眼を向けながら不信者への当てつけのような言葉を、他の人の身の上を説明している時に、口にするのであったが、順番が来て庸三が傍へ行くと、不幸者を劬わるような態度にかえって、叮嚀に水晶の珠を転がし、数珠を繰るのであった。
「この人は、きっと貴方の処へ帰って来ます。慈父の手に縋るようにして帰って来ます。貴方がもし行くにしても、今は少し早い。月末ごろまで待っていなさるがいい。そのころには何かの知らせがある。」
 卜者は言うのであった。
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部屋で待っている 1K???v07/02 00:39?d?b3PC PC返信

「何を着て行っていいか、お神さんが先生に来て見て下さいって。」
「そう。」
 庸三が行ってみると、箪笥の抽斗と扉がいくつも開いていて、そこに敷いた青蓙のうえにも外にも、長襦袢や単衣や帯が、花が散りしいたように取り散らかされていた。
「あまり派手じゃいけないでしょう。」
「そうね。あまり目立たない方がいいよ。」
 結局何かの雨絣に、黒の地紋の羽織ということになった。顔もいつものこってりしない程度で、何かきりりと締りの好い、愛らしい形がそこに出来あがった。彼女は流行さえ気にしなければ、一生着るだけの衣裳に事欠かないほどのものを持っていた。丸帯だけでも長さ一間幅四尺もある金庫に一杯あった。すばらしい支那服、古い型の洋服――そんなものも、その後何かのおりに、引っ張り出してみたが、それらは残らず震災後に造ったもので、無論クルベー好みのけばけばしいものばかりであった。
 車が来たので、庸三は勝手口から降りた。小夜子はコムパクトを帯にはさみながら部屋を出て来た。
「ちょっと寄り道してもいいでしょう。手間は取りません。」
 そう言って小夜子は永田町へと運転士に命じた。
 じきに永田町の静かな町へ来た。小夜子は蔦の絡まった長い塀のはずれで車をおりて、その横丁へ入って行った。しゃなりしゃなりと彼女の涼しげな姿が、彼の目の先を歩いて行ったが、どんな家へ入って行ったかは、よく見極められなかった。それがクルベーの邸宅であることは、ずっと後に解った。
 暑い盛りの歌舞伎座は、そう込んでいなかった。俳優の顔触れも寂しかったし、出しものもよくはなかった。庸三は入口で、顔見しりの芝居道の人に出逢ったが、廊下でも会社の社長の立っているのを見た。小夜子が紹介してくれというので、ちょいと紹介してから、二階へあがって行ったが、そうやって、前側にすわって扇子をつかっている小夜子の風貌は、広い場内でも際立つ方であった。でも何の関係もないだけに、葉子と一緒の時に比べて、どんなに気安だか知れなかった。
武蔵野市 歯科

通信し合った意味 1K???v07/01 21:33?d?b3PC PC返信

何という恐ろしい暗示であろう。
 そうして又、何という明瞭な宣告であろう。
 二年前に志村のぶ子から紫のハンカチを受け取った志村浩太郎氏は、その夜のうちに奇怪な変死を遂げたではないか。今から考えると、志村浩太郎氏の死状は、私の判断も、呉井嬢次の説明も超越した、恐ろしい死に方であったのだ。
 そうして現在の私も、紫のハンカチを、J・I・Cと関係のあるらしい美しい女から渡されて、死の暗示を与えられているではないか。二年前の志村氏と同様の不可思議な「死の運命」の方向へ、ぐんぐんと惹き付けられて行きつつあるではないか。
 ……私がJ・I・Cに殺されなければならぬ理由は数え上げるだけ野暮であろう。私が二年前に、前総監の許可を得て、M男爵から内密に借り受けた名簿によって日本内地に散在するJ・I・C団員を虱潰しに投獄し、又は国外に放逐した事実は、微塵も外へ洩れていないにしても、最少限J・I・Cの連中の記憶には骨の髄まで徹底している筈である。さもなくとも私が辞職の直前に、現警視総監と大声で云い争った、その半言隻句でも外に洩れたとすれば、それだけで十分である。況や私の眼の球の黒いうちはJ・I・Cの影法師でも二重橋橋下に近づけない覚悟でいる事が、万に一つでもJ・I・Cに伝わったとしたらどうであろう。
 否々。彼等はもうとっくの昔に私のこうした決心を感付いている筈である。そうして私を第一番に片付けてから、第二第三の仕事にかかる予定にしていなければならぬ筈である。そうして彼等はこの目的の下に、生命知らずの無頼漢をすぐり集めて、曲馬団を組織して捲土重来したものに違いないのである。これは決して私の自惚れや何かで云うのではない。
 然るに私は最前嬢次少年に会ってから後というものはこんな考えから全然遠ざかっていた。自分の一身に関する危険なぞは変にも考えずに、ただ漫然と様子を見る位の考えで見物に来ていた。そうして嬢次少年の仕事を手伝うこと以外に何等の緊張も、危険も感じないまま双眼鏡をひねくりまわしているに過ぎなかった。そうして思いもかけぬ大失敗をして徹底的にたたき付けられたまま曲馬場を出て来たのであった。
幡ヶ谷 歯科

奇蹟的な偶然を、私の第六感の作用として判断すると、一切の疑問の闇を貫く一道の光明が、サーチライトのようにありありと現われて来るではないか。
 あの時に発見した聖書は、今も警視庁の参考品室の片隅にある、暗号の部と書いた硝子戸棚の中に投り込まれたままになっている。たしか二〇一番の札を貼られたまま塵埃に包まれている筈である。
 私も、今朝の中迄はすっかりあの事件を忘れてしまっていた。何もかも忘れて、余生を自然科学の研究に没頭して送るべく、これから追々と買入れねばならぬ器械と、薬と、書物の事ばかり考えていた。
 ところが今日の午後になって、嬢次少年の訪問を受けると又も、新にその時の記憶を喚び起したのみならず、その問題の曲馬団の興行を見物に来て、カルロ・ナイン嬢の美しい姿を見て、どこかの華族様の令嬢ではないかと思ったりした。又、自分の直ぐ背後に坐っている女優髷の女を見ると、もしや志村のぶ子ではあるまいか……なぞと途方もない事を考えたりした。そのおかげであべこべに女から不良老年と見られて逃げられてしまったが、その時に私は、変な日だなと思った。今日は自分の頭が余程どうかしていると思った。そのほかにも未だ二つ三つ変だな……と思った事があったが、先の用事に気を取られて、次から次に忘れて行った。おまけに時間の間違いで、大勢の女が舞踏の最中に、馬に蹴殺されそうになった心配の余りに、頭がすっかり混乱してしまって、茫然恍惚とした夢うつつの境をさまよいながら、どこをどう歩いているか解らないまんまにカフェー・ユートピアに来てしまったのである。曲馬団が真赤な偽物である直接の証拠を一つも発見し得ないまま……嬢次少年の復讐を手伝うべき準備偵察も何も出来ないまま……そうして団員のどれもこれもが、皆本物の曲馬師で、素晴らしい腕前を持っているらしいのに感心させられたまま……平生の理智と判断力とをめちゃめちゃにたたき付けられて終いかけていたのである。
山手町 歯科

紫色の包み 1K???v07/01 21:31?d?b3PC PC返信

中味を検めようとした時に、その包んだ風呂敷が、紫色の絹ハンカチである事に気付くと同時に、私ははっとさせられた。そうして今日じゅうの出来事……否、二年前の東京駅ホテル殺人事件以来の出来事の裏面に潜む、想像を超越した奇怪な出来事が、一時に解決されかかったように思いつつ、眼の前に並んだ四枚の皿を見まわした。
 それから私は立ち上って出て行きがけに、念のため私が自分で註文した食事が、黒麺麭とスープとハムエッグスと、ウイスキーを入れた珈琲の四皿に相違なかったかどうかをボーイに問い確かめてみると、ボーイはその通りですとハッキリ答えた。その時に私は一切の秘密を明かにする裏面の真相が電光のように私の頭に閃めき込むのを感じたのであった。
 私の第六感の作用のすばらしさをハッキリと感じたのであった。
 読者は記憶しておられるであろう。
 去る大正七年十月十四日の朝、東京駅ホテル第十四号室で起った岩形圭吾氏こと、志村浩太郎氏の変死事件を探るために、私はその朝の午前十一時頃カフェー・ユートピアへ来た。そこで一冊の聖書を見付けて、その聖書によって志村氏と、その妻のぶ子がJ・I・Cに関係している事実を発見したことを……。
 ……ところでその時に私が坐っていた卓子は、確かに最前坐っていたのと同じ卓子の同じ椅子で、しかも、その卓子が又その前夜、志村夫婦が差し向いに坐っていたその卓子ではなかったか。……のみならずその卓子に腰をかけていた志村浩太郎氏が、その妻ののぶ子から紫のハンカチを受け取る直前に、その卓子の上に並べていた四皿の料理は、今夜疑問の女から紫のハンカチを受け取る前に並べていた四皿の料理と、そっくりそのままの……黒麺麭と、スープと、ハムエッグスとウイスキー入りの珈琲ではなかったか。
神保町 歯医者

三年前の出来事 1K???v06/25 10:40?d?b3PC PC返信

新王タマセセに対する島民の反感は烈しかった。衆望はマターファに集まっていた。一揆が相継いで起り、マターファは自分の知らぬ間に、自然推戴の形で、叛軍の首領になっていた。新王を擁立する独逸と、之に対立する英米(彼等は別にマターファに好意を寄せていた訳ではないが、独逸に対する対抗上、事毎に新王に楯ついた)との軋轢も次第に激化して来た。一八八八年の秋頃から、マターファは公然兵を集めて山岳密林帯に立籠った。独逸の軍艦は沿岸を回航して叛軍の部落に大砲をぶち込んだ。英米が之に抗議し、三国の関係は、かなり危い所まで行った。マターファは度々王の軍を破り、ムリヌウから王を追うてアピアの東方ラウリイの地に包囲した。タマセセ王救援の為に上陸した独艦の陸戦隊はファンガリィの峡谷でマターファ軍のために惨敗した。多数の独逸兵が戦死し、島民は欣んだというより寧ろ自ら驚いて了った。今迄半神の如く見えた白人が、彼等の褐色の英雄によって仆されたのだから。タマセセ王は海上に逃亡し、独逸の支持する政府は完全に潰えた。
 憤激した独逸領事は、軍艦を用いて島全体に頗る過激な手段を加えようとした。再び、英米、殊に米国が正面から之に反対し、各国はそれぞれ軍艦をアピアに急航させて、事態は更に緊迫した。一八八九年の三月、アピア湾内には、米艦二隻英艦一隻が独艦三隻と対峙し、市の背後の森林にはマターファの率いる叛軍が虎視眈々と機を窺っていた。
高田馬場駅前の美容院

諸所の暴動も独逸軍艦の砲火の前に沈黙しなければならなかった。
 独兵の追跡を逃れて森から森へと身を隠していた前王ラウペパの許に、或夜、彼の腹心の一酋長から使が来た。「明朝中に貴下が独逸の陣営に出頭しなければ、更に大きな災禍が此の島に起るであろう」云々。意志の弱い男ではあったが、尚、此の島の貴族にふさわしい一片の道義心を失ってはいなかったラウペパは、直ぐに自己犠牲を覚悟した。其の夜の中に彼はアピアの街に出て、秘かに前の副王候補者であったマターファに会見し、之に後事を託した。マターファは、ラウペパに対する独逸の要求を知っていた。ラウペパは、ほんの暫くの間、独艦に乗って何処かへ連去られねばならぬ。但し、艦上に於ては前王として出来る限り厚遇すると、独逸艦長が保証していることを、マターファは附加えた。ラウペパは信じなかった。彼は覚悟していた、自分は二度とサモアの地を踏めまいと。彼は、全サモア人への訣別の辞を認めて、マターファに渡した。二人は涙の中に別れ、ラウペパは独逸領事館に出頭した。其の午後、彼は独艦ビスマルク号に載せられ、何処へともなく立去った。彼の訣別の辞は悲しいものであった。
「……我が島々と、我が全サモア人への愛の為に、余は独逸政府の前に自らを投出す。彼等は、その欲するままに余を遇するであろう。余は、貴きサモアの血が、我故に再び流されることを望まぬ。しかし、余の犯した如何なる罪が、彼等皮膚白き者をして、(余に対し、又、余の国土に対し)斯くも憤らしめたか、余には未だにそれが解らぬのだ。……」最後に彼は、サモアの各地方の名前を感傷的に呼びかけている。「マノノよ、さらば、ツツイラよ。アアナよ。サファライよ……」島民は之を読んで皆涙を流した。
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ココア、パイナップル等を栽培していた。千に近い労働者は、主に、サモアよりも更に未開の他の島々や、或いは遠くアフリカから、奴隷同様にして連れて来られたものである。
 過酷な労働が強制され、白人監督に笞打たれる黒色人褐色人の悲鳴が日毎に聞かれた。脱走者が相継ぎ、しかも彼等の多くは捕えられ、或いは殺された。一方、遥かに久しい以前から食人の習慣を忘れている此の島に、奇怪な噂が弘まった。外来の皮膚の黒い人間が島民の子供を取って喰うと。サモア人の皮膚は浅黒、乃至、褐色だから、アフリカの黒人が恐ろしいものに見えたのであろう。
 島民の、商会に対する反感が次第に昂まった。美しく整理された商会の農場は、土人の眼に公園の如く映り、其処へ自由に入ることが許されぬのは、遊び好きな彼等にとって不当な侮辱と思われた。折角苦労して沢山のパイナップルを作り、それを自分達で喰べもせずに、船に載せて他処へ運んで了うに至っては、土人の大部分にとって、全く愚にもつかぬナンセンスである。
 夜、農場へ忍び入って畑を荒すこと、之が流行になった。之は、ロビンフッド的な義侠行為と見做され、島民一般の喝采を博した。勿論、商会側も黙ってはいない。犯人を捕えると、直ぐに商会内の私設監獄にぶち込んだばかりでなく、此の事件を逆用し、独逸領事と結んでラウペパ王に迫り、賠償を取るのは勿論、更に脅迫によって勝手な税法(白人、殊に独人に有利な)に署名させるに至った。
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百燭の青電球 1K???v06/25 04:28?d?b3PC PC返信

その光りを反射して雪のように輝いている庭の茂みを見まわしていた。庭の隅々や、家の向う側に隠れている人の気配が感じられはしまいかと、眼を凝らし、耳を澄ましていた。しかし、そこいら中はひっそりかんとしていて、そんな気配はちっとも感じられなかった。
 私は自分の家ながら、敵の住家を見るような気持ちがした。何かしら想像以上のものが……もしくは私の神経以上の敏感なものが待ち構えているようで、容易に門の中へ這入れなかった。況して窓の中を覗くのはこの上もない冒険で、白い光りの幕を背景にした私の影法師を、道沿いの電車の音に紛れて狙い撃ちにするのは訳ない事であった。
 電車が二つばかり轟々と音を立てて私の背後の線路を横切った。ユーカリの枯葉が一二枚、暗の空から舞い落ちて微かな音を立てた。
 その音を聞くと、急に私は自分の臆病さに気付いて可笑しくなった。
 二十何年間の探偵生活に鍛え上げられた自分の神経を思い出しつつ人通りの絶えたのを幸いに抜き足さし足窓の所に近付いた。ちょうど窓の右手の処にこんもりした椿の樹が立っていて、暗の中に赤い花を着けている。その蔭に身を寄せて、窓の隅に映っている丸い影法師……それは卓上電話の頭であった……の中央にあるドローン・ウォークの編み目から内部を覗いた。
 すぐに室の中の様子がすっかり変っているのに気が付いた。つい五六時間前に、少年嬢次と話をした時まで、樅の板壁に松天井、古机に破れ椅子というみすぼらしい書斎の面影は跡型もなくなっている。
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