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あなたにもお気の毒ですから
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笹村の興奮した神経は、どこまで狂って行くか解らなかった。どうすることも出来ないほど血の荒立って行く自分を、別にまた静かに見つめている「自分」が頭の底にあったが、それはただ見つめて恐れ戦いているばかりであった。口からは毒々しい語がしきりに放たれ、弛みを見せまいとしている女のちょっとした冷語にも、体中の肉が跳びあがるほど慄えるのが、自分ながら恐ろしくも浅ましくもあった。そんな荒い血が、自分にも流れているのが、不思議なくらいであった。
「とてもあなたには敵いません。」
そう言って淋しく笑う女も、傷を負った獣のように蒼白い顔をして、笹村の前に慄えていた。骨張った男の手に打たれた女の頭髪は、根ががっくりと崩れていた。爛れたような目にも涙が流れていた。女はそれでも逃げようとはしなかった。
「ほんとに妙な気象だ。私が言わなくたって、人がみんなそう言っていますもの。」
女はがくがくする頭髪を、痛そうに振り動かしながら、手で抑えていた。
笹村が、ふいに手を女の頭へあげるようなことは、これまでにもちょいちょいあった。寝ている女の櫛をそっと抜いて、二つに折ったことなどもあった。女は打たれるよりか、物を壊されるのが惜しかった。笹村の気色が嶮しくなって来たと見ると、箪笥や鏡台などを警戒して、始終体でそれを防ぐようにした。
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04/19 08:08
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