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国道の大混乱から一歩入っただけ
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あたりには人影がない。声もしない。
それでも僕は走った。走り続けるのをやめなかった。路地から路地へ、肩を寄せ合ってうずくまるようにして建ち並ぶ家並みを結ぶ小さな道を、全速力で走った。
身体の内側から突き上げてくる名前のない焦燥感の中で、僕はイリュージョンを目撃する。真昼の裂け目の暗闇が、銀色のスプーンに影を落とす。手作りの刃物と、子どもが手にする風船さえもが、太陽と月の両方を隠す。同時に現れる日蝕と月蝕。僕は早とちりをしてしまったのかもしれない。こんなことをしていても無駄なのだと、誰かに言われているような気がする。
ピュッと、鋭い指笛が鳴った。
一瞬立ち止まって、あたりを見回す。
オサムだ。二〇メートルぐらい離れた曲がり角の電信柱の下で、オサムが大きく腕を振り回しながら僕に「こっちに来い」と必死に合図している。その腕の動きで僕に行き先を示し、示すと同時に自分も走りだす。そのオサムの後を、僕は追った。
オサムは、僕に向かってニヤリと笑いかけてくる。
「もたもたしてると逃げられちゃうぜ」
オサムが、目の前のしもたやの入口にいきなり走り込む。慣れた様子で玄関のガラス戸をガラリと開けると、そこは広い土間だった。その土間いっぱいにサーキット場の模型が組み立てられていた。僕たちはそのサーキット場に走り込んだ。店の人は誰もいない。そのまま突っ切って、オサムは裏口を開ける。
そこは小さな庭だった。咲き終わったヒマワリがうずくまっていた。オサムは低い生け垣に駆け寄り、ささやかな木戸の錆び付いた金具を力まかせに引っ張る。木戸が開いた。それは隣の家の庭に通じる木戸だった。
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06/02 18:16
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