島民は新王に不服だった

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諸所の暴動も独逸軍艦の砲火の前に沈黙しなければならなかった。
 独兵の追跡を逃れて森から森へと身を隠していた前王ラウペパの許に、或夜、彼の腹心の一酋長から使が来た。「明朝中に貴下が独逸の陣営に出頭しなければ、更に大きな災禍が此の島に起るであろう」云々。意志の弱い男ではあったが、尚、此の島の貴族にふさわしい一片の道義心を失ってはいなかったラウペパは、直ぐに自己犠牲を覚悟した。其の夜の中に彼はアピアの街に出て、秘かに前の副王候補者であったマターファに会見し、之に後事を託した。マターファは、ラウペパに対する独逸の要求を知っていた。ラウペパは、ほんの暫くの間、独艦に乗って何処かへ連去られねばならぬ。但し、艦上に於ては前王として出来る限り厚遇すると、独逸艦長が保証していることを、マターファは附加えた。ラウペパは信じなかった。彼は覚悟していた、自分は二度とサモアの地を踏めまいと。彼は、全サモア人への訣別の辞を認めて、マターファに渡した。二人は涙の中に別れ、ラウペパは独逸領事館に出頭した。其の午後、彼は独艦ビスマルク号に載せられ、何処へともなく立去った。彼の訣別の辞は悲しいものであった。
「……我が島々と、我が全サモア人への愛の為に、余は独逸政府の前に自らを投出す。彼等は、その欲するままに余を遇するであろう。余は、貴きサモアの血が、我故に再び流されることを望まぬ。しかし、余の犯した如何なる罪が、彼等皮膚白き者をして、(余に対し、又、余の国土に対し)斯くも憤らしめたか、余には未だにそれが解らぬのだ。……」最後に彼は、サモアの各地方の名前を感傷的に呼びかけている。「マノノよ、さらば、ツツイラよ。アアナよ。サファライよ……」島民は之を読んで皆涙を流した。
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