明るけりゃ月夜だと思う

源氏の将軍が預言者であったか

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1K???v 2014/06/09 06:20 ?d?b3PC PC

売卜者であったか、わたしは知らない。しかし此の町の人たちは、果たして頼家公に霊あるものとして斯ういうものを設けたのであろうか、あるいは湯治客の一種の慰みとして設けたのであろうか。わたしは試みに一銭銅貨を入れてみると、カラカラという音がして、下の口から小さく封じた活版刷のお神籤が出た。あけて見ると、第五番凶とあった。わたしはそれが当然だと思った。将軍にもし霊あらば、どのお神籤にもみんな凶が出るに相違ないと思った。
 修禅寺はいつ詣っても感じのよいお寺である。寺といえばとかくに薄暗い湿っぽい感じがするものであるが、このお寺ばかりは高いところに在って、東南の日を一面にうけて、いかにも明るい爽かな感じをあたえるのが却って雄大荘厳の趣を示している。衆生をじめじめした暗い穴へ引き摺ってゆくので無くて、赫灼たる光明を高く仰がしめると云うような趣がいかにも尊げにみえる。
 きょうも明るい日が大きい甍を一面に照らして、堂の家根に立っている幾匹の唐獅子の眼を光らせている。脚絆を穿いたお婆さんが正面の階段の下に腰をかけて、藍のように晴れ渡った空を仰いでいる。玩具の刀をさげた小児がお百度石に倚りかかっている。大きい桜の木の肌がつやつやと光っている。丘の下には桂川の水の音がきこえる。わたしは桜の咲く四月の頃にここへ来たいと思った。
 避寒の客が相当にあるとは云っても、正月ももう末に近いこの頃は修善寺の町も静かで、宿の二階に坐っていると、聞えるものは桂川の水の音と修禅寺の鐘の声ばかりである。修禅寺の鐘は一日に四、五回撞く。時刻をしらせるのではない、寺の勤行の知らせらしい。ほかの時はわたしもいちいち記憶していないが、夕方の五時だけは確かにおぼえている。それは修禅寺で五時の鐘をつき出すのを合図のように、町の電燈が一度に明るくなるからである。
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