明るけりゃ月夜だと思う

お礼申上げる

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1K???v 2014/06/25 04:23 ?d?b3PC PC

読み終ると私は絵葉書をぽんとたたいた。
 ……これだ。これが彼奴等のトリックなんだ。俺の第六感はこの通り全部的中しているのだ。
 ……よろしい……紫のハンカチはたしかに受取ったぞ。その代りに白い眼かくしを送ってやるぞ。
 ……しかし貴方の御親切が私の生命はよかったな。全くその通りだ。アハハだ。
 ……もう一人の相棒も洒落てるぞ。情婦と書かないところがしおらしいぞ……ははん……。
 こんな事をつぶやくともなく冷笑した私は、反射鏡越しに運転手をちらりと見て、車内照明を消さした。
 自動車はもう、日比谷公園の中から虎の門を横筋かいに、溜池の通を突き抜けている。何の事件か知らないが豆を撒いたように街路を狂奔する号外売を、追い散らす間もなくすり抜けすり抜けして赤坂見附の真中に片手を揚げている交通巡査をちらりと見残したまま一気に東宮離宮横の坂を飛び上った。
 その時に私はふと思い出して、腰のポケットを撫でてみたが、そこにはT型七連発のブローニングがちゃんと納まっていた。小型ではあるが新火薬の尖弾で、二百米突以上利く凄いものである。
 自動車は一度もストップを喰わずに新宿駅に着いた。まだ月が出ない。
 暗い掘割りの底の遠く遠くに小さなイルミネーションのような中野駅が見える。
 今乗って来た山の手電車は、蒼白いスパークをレイルに反射させながら、その方向へ一直線に、小さく小さく吸い寄せられて行った。
 暗い掘割りの一町ばかり向うに、黒い木橋が架かっている。その左手には高い火の見梯子が見える。それと向い合って、木橋の右手の坂下には、私の家の門口にある高さ三丈ばかりのユーカリの樹が梢を傾けているが、その上空には無数の星が明日の霜を予告するように羅列している。冬のおわりの最も澄み切った、厳粛な夜である。
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