明るけりゃ月夜だと思う

気分が引き締って来る

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1K???v 2014/06/25 04:26 ?d?b3PC PC

一事、一物も見逃してはならないぞ……後で笑われるような軽卒な事をするまいぞ……死生を超越した八面玲瓏の働きをするのだぞ……そうして徹底的にやっつけるのだぞ……と改めて自分自身に云い聞かすように考えながら、もう一度腰のポケットを撫でてみた。全く、これ程のものを相手にしたのは今度が初めてである。従ってこれ程に精神が緊張したこともまだ曾てない。どんな難事件に出会っても、どんな強敵を相手にしても、綽々として余裕を保っていた私の精神は……身体はギリギリと引き締まって、ちょっと触っても跳ね上る位になっていた。
 併し表面は飽くまでも平静を装うていた。今の電車から降りた官吏や、学生や、労働者らしいものが十二三人急いで行くのに混じって、悠々と大胯に踏切を越えた。平生よりももっと当り前の(もしそんな状態があり得るとすれば)歩きぶりで自分の家の門まで来た。
 見ると出がけに確かに閂を入れて南京錠を卸しておいた筈の青ペンキ塗りの門の扉が左右に開いて、そこから見える玄関の向って左の一間四方ばかりの肘掛窓からは、百燭ぐらいの蒼白い電燈が、煌々と輝き出している。
 ……おや……と思って私は立ち止まった。
 その窓には非常に綿密なドローン・ウォークを施した、高価なものらしい白麻の窓掛が懸かって、一面に眩しいハレーションを放射している。私の家は殺風景な青ペンキ塗りの板壁で、あんな贅沢な窓掛とは調和しない。この上に今は二月の末で、白い窓掛は明かに時候外れである。その向う側で、電話にかかっているらしい話声が聞えるが、程遠い上に、硝子窓に遮られているのでよく聞えない。
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